白樺湖 夏の家

Introduction

2016年 4月 28日 ー、 白樺湖のほど近く、木立の中に静かに佇む、「工学院大学白樺湖学寮」2016年3月末をもって寮としての役目を終え、閉館することとなった。だが、建築学部同窓会が施設を引き継ぎ、志を同じくする者が集まって、会員制の別荘、『白樺湖 夏の家』として維持されていくことが決まる。

このプロジェクトにtaloがどのように関わったかをお話しする前に、白樺湖学寮を設計した武藤章氏について述べさせてほしい。


武藤 章 -Akira Muto-

1931年   東京都生まれ
1950年   東京都立日比谷高校卒業
1954年   東京大学建築学科卒業、株式会社 新建創入社
1956年   工学院大学建築学科助手
1960-61年  アトリエ・アルヴァ・アアルトで建築設計の研究
      アルヴァ・アアルトに師事
1961-62年  イタリア ジーノ・ヴァッレ設計事務所にて設計に従事
1963年   武藤章研究室一級建築士事務所設立
1974年   工学院大学教授
1985年   10月12日逝去


注目すべきは 1960-1961年

・アトリエ・アルヴァ・アアルトで建築設計の研究
・アルヴァ・アアルトに師事

武藤氏はアルヴァ・アアルトのもとで学んだ唯一の日本人建築家であり、アアルトに関する著書を多数発表している。アアルト本人から直接の許諾を受けて出版した『アルヴァ・アアルト』(SD選書、武藤章著)は、建築を学ぶ学生や、建築家のバイブルとして今でも版を重ねている。

ここで冒頭の2016年4月28日に戻る。

『白樺湖 夏の家』へと生まれ変わるにあたって、インテリアを構成する家具や照明には、武藤氏も愛用したアルヴァ・アアルトのデザインのもので統一するということ。

武藤氏の空間にアアルト家具を配することによって、北欧の暮らしに学ぶシンプルで快適なインテリア空間を作り出すということ。

以上をふまえ、長年の北欧ビンテージ家具の買い付け経験と知識が評価され、その目で家具を選定してほしいと、taloオーナーあてにオファーをいただいたのが、始まりだった。

アアルトの家具、動態保存へ

工学院大学建築学部の鈴木教授らとの打ち合わせにより、taloオーナーから提示したことは、一つ。 「武藤氏の建築保存をより昇華するならば、是非アアルトのビンテージ家具を使用してほしい」 制作年代の異なるモデルや、希少価値の高いものを、taloオーナー自ら選定し完成に至った夏の家。 今回のプロジェクトは、鈴木氏の考える建築保存への想いと、我々ビンテージ家具屋の考える「古い家具を使い続けていく」という想いが交わるプロジェクトになった。

別荘への用途変更にあたり、規模を減築し、コンパクトで使いやすい空間を目めざす。

夏の家としての利用なので、石油に頼る暖房は廃止。

大きな厨房は解体。最小限の設備とし、楽しく料理ができる環境へ。




『白樺湖 夏の家』は故武藤章氏の北欧建築・デザインの精神に学ぶ場へと変貌を遂げた。その一環として、2016年10月25日、鈴木研究室の学生の皆さんへtaloオーナーによる、アルヴァ・アアルトの家具講習会が開催された。






建築をいかに保存するか、



この試みには鈴木教授の建築保存への想いがある。

武藤氏の晩年の名作、工学院大学八王子図書館の解体。アアルト建築の流れを色濃く反映した作品と高く評価されていた。教え子たちは何とか保存の道を模索したが、かなわなかった。

鈴木教授は、多くの建築が壊される宿命にある現実を直視し、建築をいかに保存するかを未来志向で考えた時に『建築を保存する本』の概念に辿り着いたそうだ。「細部にまでこだわった設計思想を後世に伝えたいと記録保存を思い立った。そのまま復元できるような詳細なものを作りたい」と話している。そうして刊行されたのが、『建築を保存する本01』だ。

そして今回の白樺湖 夏の家、こちらは建築を保存するもう一つの方法として提案された。この試みの成果がまとめられ、『建築を保存する本02』として刊行予定だそうだ。出版されるのが今から待ち遠しい。

taloがこのプロジェクトに携われたことを光栄に思う。これからも様々な形で貢献していけたらと考えている。



鈴木 敏彦 -Toshihiko Suzuki-

工学院大学建築学部教授
建築学部同窓会会長

建築を保存する本01 / NICHE編著 Opa Press